営業ロープレの台本|営業役に渡すのは「セリフ」ではなく「確認することの順番」
営業ロープレの台本は、営業役に渡すトークスクリプトのセリフを固定するほど、引き出す練習になりません。各ステップで確認することの順番を骨格にした台本の作り方、5ステップ別の骨格表と外れた時の戻り方、台本の使い方ごとの比較を整理しました。

新人に渡したトークスクリプトを、ロープレの前日までに読み込んできてもらう。当日、営業役は冒頭の挨拶から商品説明まで、ほぼ書いてあるとおりに話せた。ところが、お客様役の先輩が「うちは今、別の会社で間に合ってるんだよね」と一言はさんだ瞬間、営業役は黙り込み、数秒おいて台本の次の行、商品の特長説明を読み始めた。会話は噛み合わないまま終わり、講評は「台本はよく入ってたね。切り返しだけ課題かな」。
これは営業役の覚え方の問題でも、台本の出来の問題でもありません。台本に「何を書くか」の問題です。
営業ロープレで営業役に渡す台本は、セリフではなく「各ステップで確認することの順番」です。 セリフを固定した台本は、相手から情報を引き出す練習になりません。台本の出番は、覚える時より、話が外れた時です。外れたら、台本を見て戻ります。
この記事では、まずセリフ型の台本で練習が止まる理由を説明します。次に、営業の5ステップ別の台本の骨格(確認すること・トーク例・外れた時の戻り方)を示し、自組織の台本を点検するチェックポイントを挙げます。最後に、台本の使い方ごとの比較と、AIロープレで台本の役割がどう変わるかを整理します。
ロープレの進め方全体は営業ロープレのやり方で扱っているので、この記事は営業役に渡す台本の中身に絞ります。対になるお客様役の情報(裏設定)の設計には、ここでは立ち入りません。
営業ロープレの台本には2種類ある — セリフ型と骨格型
営業ロープレには、セリフそのものを読み合わせる「演劇型」と、場面と基本情報だけを渡して会話は営業役が組み立てる「ケース型」があります。台本と聞いて思い浮かぶのは前者で、セリフが並んだ台本、つまりセリフ型の台本でしょう。
演劇型の台本には、はっきりした使いどころがあります。新商品の説明や、業界特有の言い回しを初めて口にする段階では、まず言葉を身体に入れる必要があり、読み合わせはそのための近道です。新人がまず演劇型で型を覚え、ケース型で応用する、という組み合わせは営業ロープレのやり方でも紹介しています。
問題は、セリフ型の台本をそのままケース型のロープレに持ち込むことです。ケース型では、お客様役が営業役の知らない情報を持っていて、営業役はそれを引き出しながら商談を進めます。この進め方では、セリフの台本は手がかりになりません。この記事が扱うのは、ケース型の営業役が持つべき骨格型の台本、つまり「確認することの順番」を書いた台本です。
セリフを固定した台本で、練習が止まる3つの理由
冒頭の場面で何が起きていたのかを分解すると、セリフ型の台本の限界が見えてきます。
- 相手の答えを前提に書かれている。セリフの台本は「お客様がこう言う → 営業がこう返す」の連なりです。お客様役の一言が前提と違った瞬間に、次のセリフの前提が崩れます
- 外れたときの手がかりがない。台本に書いてあるのは順調に進む商談だけです。外れた営業役に残された選択肢は、黙るか、台本の次の行を読むかの二択になります
- 講評が「言えたか」になる。講評者も台本を基準に見るので、評価は再現度に寄ります。相手の課題を確認できたか、決裁の流れを聞けたかは、台本に書いていないので見えません
ありていに言えば、セリフの台本で鍛えられるのは「言う力」で、ケース型のロープレで鍛えたい「引き出す力」とは別物です。
では、セリフを捨てたら何が残るのか。残るのは順番です。お客様役が何を言おうと、「面談の目的を合意し、現状と課題を聞き、聞いたことに沿って提案し、次の一歩を決める」という商談の順番は変わりません。セリフは外れる。順番は外れない。 営業役に渡す台本は、この外れないほうを書いたものにします。
台本の骨格 — 5ステップ別の「確認すること・トーク例・戻り方」
営業プロセスは、事前準備・アプローチ・ヒアリング・プレゼンテーション・クロージングの5ステップに分けます。ステップごとに、「確認すること(順番)」「トーク例」「外れた時の戻り方」を書いた骨格を載せます。
出どころを先に切り分けておきます。アプローチとクロージングの「確認すること」は、「5ステップ70スキル」で、初回面談とクロージングの「やるべきこと」の例として挙がっている項目です。「5ステップ70スキル」は、2,000名以上のトップセールスモデルの営業行動・トークを体系化したものです。この2ステップのトーク例も、同じ資料に載っている実例です。事前準備・ヒアリング・プレゼンテーションの確認事項は、この記事で補ったものです。トーク例のうち(例)と付けたものも同じです。自社の商材に合わせて言い換えてください。
| ステップ | 確認すること(この順番で) | トーク例 | 外れた時の戻り方 |
|---|---|---|---|
| 事前準備 | ①この面談のゴール(何が決まれば成功か)②相手の課題の仮説 ③出そうな抵抗(金額・時間・効果)と、それを覆す材料 | (商談前なので、台本に書くのは仮説の一文)「この会社は◯◯で困っているはずで、今日はそれを確かめに行く」 | 本番で仮説が外れたら、その場で仮説を手放し、ヒアリングの①から聞き直す。「仮説が外れたと気づけた」こと自体を講評で拾う |
| アプローチ | ①面談内容の合意 ②自社魅力の提示 ③想定される抵抗の排除 | 「本日は○○について××させていただくお時間をいただきましたが、認識に齟齬はございませんか?」(面談内容の合意) | 相手が本題の前に別の話を始めたら、その話を受けたうえで「では本日は〜ということでよろしいでしょうか」と①に戻る。①が取れないまま②③に進まない |
| ヒアリング | ①現状(今どうしているか)②困りごと(今のやり方で何が足りないか)③決まり方(誰が・いつ・どの予算で判断するか) | (例)「今はどのように対応されていますか」「そのやり方で困る場面はありますか」「見直すとしたら、どなたが判断されますか」 | 相手が答えを濁したら、別の聞き方で同じ項目にもう一度触れる。確認事項を消し込み、空欄を残したままプレゼンテーションに進まない |
| プレゼンテーション | ①聞いた課題と提案のつながりを示す ②相手に近い事例を出す ③反応を確かめる | (例)「先ほどの◯◯の件でしたら、このように使えます」「ここまでで、気になる点はありますか」 | 反応が薄ければ説明を続けず、ヒアリングの②③に戻る。反応が薄いのは、課題と提案がつながっていない合図として扱う |
| クロージング | ①組織ニーズの本質確認 ②決裁者への最後の必要性確認 ③ネクストアクションの整理・提示 | 「もし仮にですが、○月からですか?」(時期を仮置きして本気度を確かめる)「次回○のためにという話を○○に話していただくのがよろしいかと思いますが」(ネクストアクションの提示) | 「検討します」と言われたら押さず、①②のどれが未確認かを確かめる。「どなたのご判断になりますか」のように、未確認の項目に戻る |
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右端の列を見ると、戻る先はいつも「まだ取れていない確認事項」です。相手の一言に合わせて切り返しの言い回しを増やす必要はありません。どれが取れていないかを見て、そこに戻る。これが骨格型の台本の使い方です。切り返しそのものの練習は、この記事では深掘りしません。
確認事項は番号で、セリフは1つ、戻り方は1行
骨格を自社の商談に合わせて書き直すときは、次の原則を守ります。
原則1: 確認することは、番号付きの順番で書く。 ①②③と番号を振ります。外れたときに「どこに戻るか」が言えるのは、順番があるからです。1ステップあたり3つまでに絞ると、営業役が手元で消し込めます。
原則2: セリフは「例」として1つだけ添える。 言い回しを固定しないために、確認事項ごとにトーク例は1つに留め、「自分の言葉に置き換えてよい」と台本に書いておきます。トーク例は要約せず、実際の言い回しのまま載せるほうが、新人は置き換えやすくなります。これは営業マニュアルの作り方で扱った考え方と同じです。
原則3: 外れたときの戻り方を1行書く。 「相手が◯◯と言ったら、◯番に戻る」を、確認事項ごとに1行ずつ書きます。これが演劇型の台本には無い列で、書けない確認事項は、まだ骨格になっていません。
運用面で2つ補足します。営業役は、ロープレ中に台本を手元に置いて構いません。使い道は、確認事項の消し込みです。そして、お客様役には営業役の台本を見せないこと。台本を知っているお客様役は、善意で話を台本に合わせてしまい、外れる場面がなくなります。
自組織の台本を点検する5つのチェックポイント
すでに台本がある組織は、次の5点で点検できます。いずれも、手元のファイルか直近の講評メモを開けば確認できます。
- 台本の主役は、セリフか確認事項か(台本を開いて行数を数える。セリフの行が確認事項の行より多ければ、セリフ型の台本です)
- 「相手がこう言ったら」の分岐が書いてあるか(台本に書かれたお客様の発言が1種類だけなら、外れた時の戻り方は書けていません)
- 講評は「言えたか」か「確認できたか」か(直近の講評メモを見る。「噛んだ」「飛ばした」「順番が違った」が多ければ、再現度の評価になっています)
- お客様役は、営業役の台本を知らないか(お客様役の手元にあるものを確認する。営業役と同じ台本を持っていれば、読み合わせに近づいています)
- 台本を手放す基準があるか(「3回続けて順番が崩れなければ、次回は台本なし」のような基準が決まっているか。基準がないと、台本は卒業の目安ではなく依存先になります)
AIロープレの導入を検討しているなら、ここに2点を足します。デモで、こちらが用意した流れを途中で崩してみて相手の応答が変わるか。そして採点画面の項目名が、セリフの再現を見ているのか、確認事項の達成を見ているのか。次の比較表の列は、この2点に対応しています。
台本の使い方は、外れた後を練習できるかで分かれる
台本をどう使うかで、練習方法を並べます。見るのは4点です。セリフをどの程度固定するか、相手の応答が台本から外れるか、外れた後の立て直しを練習できるか、評価が「セリフの再現」なのか「確認事項の達成」なのか。
| 台本の使い方 | セリフの固定度 | 相手の応答が台本から外れるか | 外れた後の立て直しを練習できるか | 評価は「セリフの再現」か「確認事項の達成」か |
|---|---|---|---|---|
| 演劇型(セリフの読み合わせ) | 高い(書いてあるとおりに話す) | 外れない(お客様役も台本どおり) | 練習できない(外れる場面がない) | セリフの再現 |
| 骨格型の台本を持ったケース型(対人) | 低い(確認事項と例だけ) | 外れる(お客様役の裏設定しだい) | 練習できる。戻り方の指導は講評者の力量による | 講評者しだい。評価基準に確認事項を入れれば、達成で見られる |
| 汎用の生成AI相手(自作プロンプト) | 自分で決める | 指示すれば外れる | 練習できる。立て直せたかの判定は、自分で書いた基準しだい | 自分で評価項目を書けばどちらにもできる。基準は自分持ち |
| 専用AIロープレ(シナリオ型) | 高い(用意されたシナリオ・想定問答) | 外れにくい(シナリオの範囲内) | 限定的(想定問答の範囲内) | 決められたことを言えたか・正しく答えられたか |
| 専用AIロープレ(自律応答型) | 低い(台本なしで会話する) | 外れる(文脈に応じて応答が変わる) | 練習できる | サービスごとに異なる(採点項目をデモで確認) |
| Brain Plus for Sales運営会社 | 低い(トークスクリプト不要) | 外れる(顧客の性格や背景に基づいてAIが自律応答) | 練習できる(難易度を段階的に設定) | 確認事項の達成に近い(5ステップ70スキルの営業行動で採点。自社基準に変更可) |
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この表を見ると、演劇型とシナリオ型の「外れない」が弱点に見えますが、劣っているという話ではありません。言い回しを身体に入れる段階では、外れないことがむしろ利点です。汎用の生成AIも、立て直しの練習相手としては今日から使えます。足りないのは、「確認事項の達成」を誰が基準として持つかです。その基準を自分で書く手順はAIロープレの作り方で解説しています。
分かれ目は右の2列です。外れた後を練習できて、かつ評価が確認事項の達成で返ってくるか。この2つが揃って、骨格型の台本は練習の道具として働きます。
専用AIロープレは、台本の扱いで方向が分かれる
専用AIロープレの中でも、台本の扱いは方向が分かれます。台本を作る手間を軽くする方向と、台本から外れる相手を用意する方向です。
AmiVoice RolePlay は、台本型で始まり、のちに台本によらない型も加えた例です。公式のニュースリリース(2026年5月14日)によると、同サービスは2023年9月に、セルフトレーニングとして提供を開始しました。内容は、「あらかじめ設定したシナリオや評価基準にもとづき」商談のロールプレイングと自動評価を行うものです。2026年5月には、AIアバターが「受講者の発話内容や文脈に応じて臨機応変に応答」する「AI対話型ロープレ」機能をオプションとして追加しています。シナリオ型と自由対話型の違いはAIロープレとはで整理しています。
UMU AIロープレは、台本を作る手間を軽くする方向です。公式サイトが案内しているのは、「スクリプト作成用プロンプト」を使ってAIが自社向けのスクリプトを生成・調整できることと、評価基準(アセスメント)を自社独自に変更できることの2点です(2026年9月時点の公式サイトより)。また、反復練習を通じて「正しい型」を習得することを掲げています(2026年10月時点の公式サイトより)。型を先に入れて反復で固める設計です。
Brain Plus for Sales の場合 — 台本の代わりに「確認事項の体系」と「お手本」を持つ
Brain Plus for Sales は営業特化のAI商談シミュレーターで、8大機能の1つ目に、トークスクリプト不要でAIが自律応答する商談体験を挙げています。セリフ読み合わせ型とは異なり、顧客役AIは設定した顧客の性格や背景に基づいて自律応答します。営業役が台本の次の行を読んでも、相手はそれに合わせてくれません。この記事でいう「外れる相手」が、練習の前提として組み込まれています。
評価は、営業行動ができたかで返ります。この記事でいう確認事項は、その行動にあたります。採点基準の「5ステップ70スキル」は、初回面談でやるべきことの例に「面談内容の合意」「自社魅力の提示」「想定される抵抗の排除」を含んでいます。クロージングでやるべきことの例には、「組織ニーズの本質確認」「決裁者への最後の必要性確認」「ネクストアクションの整理・提示」を含んでいます。この記事の骨格表で、アプローチとクロージングの「確認すること」に置いたのは、「5ステップ70スキル」で挙げられている項目です。採点後はAIが改善点を言語化し、評価基準は自社独自のものに変更することもできます。
もうひとつ、台本の代わりになる機能があります。AIが営業役を演じてお手本を実演する機能で、自分はお客様役として営業を受けます。セリフを読んで型を入れる代わりに、順番が守られた商談をまずお客様役の立場で見てから、自分の練習に入れます。難易度は初級者向けから段階的に設定でき、24時間365日、誰にも見られずに反復できます。
向かない使い方も書いておきます。骨格型の台本そのものを自動で作る道具ではないので、自社の商談に合わせて確認事項を書き出す作業は人が行います。新商品の説明を一言一句まで入れたい段階は、演劇型の読み合わせのほうが近道です。また、複数人で同じ商談を見て「自社では何を確認すべきか」を合意する場は、対人ロープレの持ち場です。対人ロープレをAIが同じ基準で採点する機能はあっても、その合意の場自体を置き換えるものではありません。料金は公式サイトに掲載がなく、問い合わせのうえ個別に見積もる形です。
今週の台本づくりは、場面を1つに絞るところから
対人でもAIでも、営業役に渡す台本は次の順で作れます。
- 場面を1つ決める。初回面談、2回目の提案など、1つに絞る
- その場面で踏むステップを選ぶ。初回面談ならアプローチとヒアリングまで、というように5ステップの一部でよい
- ステップごとに、確認事項・トーク例・戻り方を書く。書き方は前述の3つの原則のとおりで、戻り方が書けない確認事項は言い直す
講評で見るのは、確認事項を消し込めたかです。講評に使う項目の作り方は営業ロープレのチェックシートで扱っています。
まとめ — 覚える台本から、戻る台本へ
営業ロープレの台本について、押さえておくのは次の点です。
- 営業役に渡す台本は、セリフではなく「各ステップで確認することの順番」。セリフは例として1つ添えるまで
- 台本は覚えるためではなく、外れたときに戻るためにある。戻る先はいつも、まだ取れていない確認事項
- 台本の使い方は、相手の応答が外れるか、外れた後を練習できるか、評価が確認事項の達成で返るかで選ぶ
セリフは外れる。順番は外れない。手元のトークスクリプトを開いて、セリフの行と確認事項の行を数えるところから始めてみてください。
関連記事
- ロープレの準備・実施・講評・振り返りの型: 営業ロープレのやり方
- 講評に使う評価項目の例: 営業ロープレのチェックシート
- トーク例をそのまま載せるマニュアルの書き方: 営業マニュアルの作り方
- シナリオ型と自由対話型の違い: AIロープレとは
- 生成AIで顧客役と採点役を自作する: AIロープレの作り方
参考URL
- AmiVoice RolePlay(「AI対話型ロープレ」機能追加のニュースリリース・2026年5月14日)
https://www.advanced-media.co.jp/newsrelease/11978/ - UMU AIロープレ
https://www.umu.co/product/ai-roleplay-chatbot
Brain Plus for Sales
「採点の基準」から作られた商談シミュレーターを、実際の画面でご確認いただけます。