営業マニュアルの作り方|テンプレートより先に決める「誰の行動を、どの粒度で書くか」
営業マニュアルが現場で使われないのは、書式やテンプレートのせいではありません。誰の行動を、どの粒度で分解して書くか。営業実態調査の数字、4つの手順、自組織のマニュアルを診断するチェックポイントと持ち帰り用チェックリストを整理しました。

数か月かけて営業マニュアルを作った。目次を整え、図も入れ、部長の承認も取った。ところが半年後、そのファイルは共有フォルダの奥に眠っていて、開いた形跡があるのは新人の入社初週だけ。「先輩に聞いたほうが早い」と現場は言う。営業マニュアルをめぐって、こうした筋書きは珍しくありません。
そこで次に手を伸ばすのが、見やすいテンプレートや動画化、ツールへの載せ替えです。ただ、それだけで使われるようになるとは限りません。
営業マニュアルが使われないとき、つまずいているのは書式やテンプレートより一段手前の、「誰の行動を、どの粒度で分解して書くか」を決めないまま書き始めたところです。 この記事では、作り方の手順をこの一点から組み立て直し、自組織のマニュアルを診断するチェックポイントまで整理します。
軸: 誰の行動を、どの粒度で分解して書くか
「読めるマニュアル」と「真似できるマニュアル」は別物です。読めるマニュアルは、文章として理解できます。真似できるマニュアルは、読んだ翌日に、その通りに動けます。現場が求めているのは後者ですが、実際のマニュアルは前者にとどまりがちです。
この違いを生んでいるのが、書く前に決めていない2つの設計項目です。
1つ目は「誰の行動を書くか」。よくあるのは、マニュアル担当になった人が自分の経験をもとに書く、あるいは営業の教科書的な一般論を整理して書く、というやり方です。どちらも、「成果を出している人の行動」を書いたものにはなりません。担当者の経験談は担当者にしか再現できませんし、一般論は誰にも再現できません。書くべき対象は、いま成果を出している営業、つまりトップ営業の行動です。
2つ目は「どの粒度で分解するか」。「お客様の課題を丁寧にヒアリングする」と書いてあるマニュアルは、読めますが真似できません。「初回訪問では、決裁の流れと予算の決まる時期を、この順番で、この聞き方で確認する」まで分解して、はじめて翌日の行動に変わります。粒度の基準は一つ、経験の浅い人がその通りにやってみられるかどうかです。
この2点が決まっていれば、書式はWordでもスプレッドシートでも構いません。逆に、この2点が曖昧なまま体裁を整えても、共有フォルダの奥行きが深くなるだけです。
数字で見る営業マニュアルの現在地
国立・私立3大学との共同研究の一環で実施した営業実態調査には、営業マニュアルに関する項目があります。
- 営業マニュアルを保有している企業は、全体の29.1%
- 営業マニュアルを現場で見直せている企業は、全体の2.9%
保有している企業が全体の29.1%にとどまるうえ、現場で見直せている企業は全体の2.9%と、さらに少なくなります。持っていても、多くは作られた時点の内容のまま止まっていると読めます。冒頭の「共有フォルダの奥」は、珍しい光景ではなさそうです。
一方で、同じ調査からは前向きな材料も見えています。営業マニュアルと営業ロールプレイングを組み合わせている企業からは、「早期戦力化」「営業ノウハウ・知恵の形式知化」「全体的な営業力の強化」といった効果があったという報告が挙がっています。組み合わせれば自動的に成果が出る、とまでは言えませんが、マニュアルは読ませて終わりにするより、練習の題材として使われたときに働く。そう読める結果です。この点は、後述する手順④に関わります。
営業マニュアルの作り方 — 4つの手順
軸に沿って、作る手順を4つに分けます。「更新」は作る話とは別の設計が要るため、ここには含めず、後のチェックポイントで1つだけ触れます。
| 手順 | 決めること | 具体的なやり方 | つまずきやすい点 |
|---|---|---|---|
| ① 誰の行動を書くか決める | 対象にするトップ営業(2〜3名) | 直近の成果と、再現性のありそうな進め方を基準に選ぶ。同行・商談録音・聞き取りの許可を取る | 「書ける人」が書いてしまう。書く人と、書かれる人は分けて考える |
| ② 分解する粒度を決める | 「真似できる粒度」の基準 | 場面・順番・具体的な言い回し・判断の分岐の4点が揃うまで分解する。「丁寧に」「しっかり」が出たら行動に置き換える | 網羅しようとして一般論に戻る。章によって深さが違う |
| ③ 商談の場面ごとに書く | 章立て=商談の流れ | 事前準備→アプローチ→ヒアリング→プレゼンテーション→クロージングの段階ごとに、「この段階で何ができたら次へ進むか」を先に書き、その下に行動とトーク例を並べる | 章立てが社内手続き(申請・SFA入力)の一覧になり、商談の中身が薄くなる |
| ④ 書いた行動を本人以外で試す | 再現できるかの確認方法 | 1場面分だけ新人や中堅に渡し、マニュアルだけを頼りにロープレしてもらう。できなかった箇所は、粒度が足りない箇所 | 読んでもらって感想を聞くだけで終わる。読める=真似できる、と混同する |
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手順①で対象を1名にしないのは、1名だとその人の個性まで型に混ざるからです。2〜3名に共通する行動だけを残すと、再現できる部分が残ります。
手順②の4点は、そのまま聞き取りの質問になります。自分の行動を意識せずにこなしているトップ営業も少なくないので、質問で分解を手伝うのが書く側の仕事です。
手順④を飛ばすと、完成を「作った人の満足」で判定することになります。読んだ人が動けるかどうかは、動いてもらわないと分かりません。
自組織のマニュアルを診断する5つのチェックポイント
すでにマニュアルがある組織向けに、診断の観点を5つ挙げます。いずれも、実際のファイルを開いて確認できるものにしました。
チェック1: 誰の行動が書かれているか言えるか
任意の3ページを開き、「この行動は誰がやっていることか」を答えてみてください。「営業として望ましい姿」としか答えられなければ、経験談か一般論のどちらかです。
チェック2: 「丁寧に」「しっかり」「適切に」が何回出てくるか
検索機能で数えてみてください。この種の副詞は、行動に分解できていない箇所の目印です。数が多いほど、読めるが真似できないマニュアルに近づいています。
チェック3: 目次が商談の流れになっているか
目次で、事前準備からクロージングまでの流れが追えるか確認します。申請手続きやシステム操作が章の大半なら、それは業務マニュアルであって、営業マニュアルとは別のものです。両方必要ですが、混ぜると営業の中身が薄まります。
チェック4: マニュアルだけでロープレができるか
1場面を選び、新人にファイルだけを渡してロープレしてもらいます。途中で「ここはどうすれば」と手が止まった箇所が、書き足す箇所です。
チェック5: 最終更新日を見る
ファイルのプロパティで更新日を確認します。1年以上前で止まっていれば、内容が現場とずれ始めている可能性が高いです。更新を続ける仕組みは作り方とは別の設計になるため、この記事では扱いません。営業の標準化はなぜ失敗するのかの記事で整理しています。
マニュアルの中身を、どこから持ってくるか
ここまでの4つの手順とチェックポイントは、新しく作るときも、今あるものを直すときも同じように使えます。実際にやってみると次に立ちはだかるのは、「書く材料の量」という規模の壁です。トップ営業2〜3名分の同行と聞き取りを5つの段階すべてで行うと、それだけで相当な工数になります。そこで、材料の一部を外から持ってくる選択肢があります。
ナレッジ・資料の流通を起点にする方向
社内に散らばる提案資料や成功事例、先輩のノウハウを集めて現場に届ける。この方向のサービスの一つがナレッジワークです。ナレッジワークは「AIによる営業変革を実現するセールスAXソリューション」を掲げ、ナレッジ・ワーク・ピープル&ラーニングの各領域でAIプロダクトを提供しています(2026年7月時点の公式サイトより)。マニュアルやナレッジという資料そのものの整備と流通を、組織的に進めたい場合に向く方向性です。セールスイネーブルメントツール全般の系統と選び方は、セールスイネーブルメントツールの選び方の記事で整理しています。
マニュアルの「何を書くか」を、行動分解の型から持ってくる方向
資料の流通とは少し違い、この記事の軸である「誰の行動を、どの粒度で分解するか」に、分解済みの型を提供する方向です。Brain Plus for Sales はこちらにあたります。
Brain Plus for Sales — 「5ステップ70スキル」を、書く材料として使う
Brain Plus for Sales は、AIが顧客役・お手本役・評価役を担う営業ロープレ・商談シミュレーターです。マニュアルという文書を作るツールではありません。その前提のうえで、営業マニュアルの作り方に関係するのは、採点基準として搭載している「5ステップ70スキル」です。
「5ステップ70スキル」は、2,000名以上のトップセールスモデルの営業行動・トークを、事前準備・アプローチ・ヒアリング・プレゼンテーション・クロージングの5つのステップと、70のスキルに分解して体系化した評価基準です。この記事の言葉で言えば、「トップの行動を、真似できる粒度まで分解したもの」の実例にあたります。手順①の対象者選びと並行して、分解済みの70項目をマニュアルの骨組みや粒度の見本として参照できる、という位置づけです。
もう一つの接点は、手順④の「本人以外で試す」場です。上司や先輩の時間を毎回押さえなくても、AI相手のロープレで試し、ステップ単位で返ってくる採点から「どの段階で手が止まったか」を確認できます。調査で報告されていたマニュアルとロールプレイングの組み合わせを、練習側から支える形です。
一方で、マニュアルの文書化・配布・更新管理そのものは Brain Plus for Sales の守備範囲ではなく、これまで通り人とドキュメントツールの仕事です。料金は個別見積りで、公式サイトには掲載されていません。「分解の型」と「試す場」が欲しいのか、「資料の流通」が欲しいのか。自組織の詰まりがどちらにあるかで、向くサービスは変わります。
今週から使えるチェックリスト
作り方の手順を、着手の順に並べ直したものです。上から順に、1つずつ進めてください。
- 対象にするトップ営業を2〜3名決め、同行か商談録音の許可を取る
- 全体を書こうとせず、1つの段階(たとえばヒアリング)だけで試作する
- 聞き取りは「どの場面で・どの順番で・実際に何と言って・相手の反応でどう変えるか」の4問で行う
- トーク例は要約せず、言い回しをそのまま載せる
- 書き終えたら「丁寧に」「しっかり」「適切に」を検索し、見つけた箇所を行動に置き換える
- 試作版を新人1名に渡し、マニュアルだけを頼りにロープレしてもらう。止まった箇所を書き足す
- 最初の版は10ページ以内に収める。厚さは、使われ始めてから足せます
まとめ
営業マニュアルの作り方で、書式やテンプレートより先に決めることは2つです。
- 誰の行動を書くか。作る人の経験談や一般論を離れて、成果を出しているトップ営業の行動を対象にする
- どの粒度で分解するか。経験の浅い人が翌日にその通り動ける、真似できる粒度まで下ろす
- その2点が決まったら、商談の流れに沿って書き、本人以外で試す
読めるマニュアルは、すでに社内にあるかもしれません。それを真似できるマニュアルに変えるところから、始めてみてください。
参考URL
- ナレッジワーク
https://knowledgework.cloud/
Brain Plus for Sales
「採点の基準」から作られた商談シミュレーターを、実際の画面でご確認いただけます。