営業ロープレのお題|場面より「相手が何を隠し、何で断るか」で決まる
営業ロープレのお題は「どんな商談か」より「お客様役が何を隠し、何で断るか」で決まります。5ステップ別のお題例、お客様役に渡す情報と隠す情報の分け方、難易度の上げ方、AIロープレでのシナリオの作り方の違いを整理しました。

「今日のロープレ、何をやらせよう」。朝礼の前に思いついて、「新規の初回訪問ということで」と場面だけ伝えて始める。営業役は手持ちの説明を一通り話し、お客様役は相づちを打ちながらそれらしい質問を返し、5分ほどで「じゃあ検討します」で終わる。講評は「もう少し元気よく」。やった感はあるのに、何が鍛えられたのかは誰も言えない。
お題の候補が足りないわけではありません。初回訪問、価格交渉、クレーム対応と、お題のネタはいくらでも挙がります。それでも同じことが起きるのは、お題の決め方が「場面」で止まっているからです。
営業ロープレのお題は「どんな商談か」ではなく、「相手が何を隠していて、何で断るか」で決まります。 場面だけ渡したロープレは、営業役もお客様役も同じ情報を持った状態で始まるので、台本の読み合わせに近づいていきます。お客様役には、場面に加えて、本当の課題、断り文句、そして断るのをやめる条件を渡します。
この記事では、お題を「場面・裏設定・抵抗」の3層で考える見方を示します。そのうえで、営業の5ステップごとのお題例、お客様役に何を見せて何を隠すかの渡し方、難易度の上げ方、AIロープレでお題づくりがどう変わるかを順に整理します。ロープレの進め方全体は営業ロープレのやり方、講評に使う評価項目はチェックシートの記事で扱っています。この記事はお題の中身に絞ります。
場面だけ渡すと、ヒアリングが発生しない
場面だけを渡すと、3つのことが起きます。
- 営業役が、相手の答えを知っている。「新規の初回訪問」と聞いた瞬間に、営業役は自社の標準的な説明を頭の中で組み立てます。相手の課題を聞き出す必要がないので、ヒアリングが説明の前置きになります
- お客様役が、演技に困る。何に困っていて、何を言えば断れるのかが決まっていないため、その場で考えながら答えることになります。結果、聞かれたことに素直に答える「話のわかる顧客」になりがちです
- 講評が、話し方の印象に寄る。引き出すべき情報が設定されていないので、「聞けたか・聞けなかったか」を行動で判定できず、講評は声の大きさや熱意の話になります
国立・私立3大学との共同研究の一環で実施した営業実態調査では、評価者がロープレの講評で重視する着眼点の上位は、ヒアリング関連の項目でした。具体的には、聞き取りの深さや聴き漏れのなさなどです。現場が見たいのはヒアリングなのに、場面だけのお題ではヒアリングが発生しない。ここにずれがあります。
お題は、場面・裏設定・抵抗の3層でできている
対人ロープレの基本形は、役ごとに渡す情報を変える「ケース型」です。営業役には基本情報のみ、お客様役にはニーズの全容と抵抗のシナリオ、評価者には評価基準。この「渡す情報の差」そのものがお題です。整理すると、お題は3つの層でできています。
- 場面。誰と、どの段階で、何のために会うのか。営業役とお客様役の両方が知っている部分です
- 裏設定。お客様役だけが知っている情報。本当の課題、予算の目安、決裁の流れ、競合の検討状況。営業役が適切な質問をしたときにだけ出てきます
- 抵抗。お客様役がどの場面で、何と言って断るか。そして、何があればその抵抗を引っ込めるか
場面は1層目にすぎません。ロープレの手応えを決めるのは2層目と3層目です。言い換えると、場面を変えるより、隠しごとを変える。同じ「初回訪問」でも、裏設定と抵抗を差し替えれば、別のロープレになります。
営業ロープレのお題例 — 5ステップ別
叩き台として、営業プロセスの5ステップ(事前準備・アプローチ・ヒアリング・プレゼンテーション・クロージング)に沿ったお題例を載せます。いずれも例なので、業種・役職・商材は自社の商談に置き換えてください。社名や人物名は入れず、「製造業の購買担当」程度の属性で止めるのがコツです。実在の顧客を思わせる固有名詞を入れると、お客様役がその人の物真似になり、裏設定が効かなくなります。
| ステップ | お題(例) | 営業役に渡す情報 | お客様役だけが持つ裏設定 | 想定される抵抗 | 鍛えたいスキル |
|---|---|---|---|---|---|
| 事前準備 | 展示会で名刺交換した製造業の購買担当への初回訪問 | 名刺の情報、展示会で聞いた「今の仕入先に少し不満がある」の一言、公開されている会社情報 | 不満の出どころは品質部門で、不良率の問題が社内で課題になっている。購買担当は上司から情報収集を指示されただけ | 「今日は資料をいただければ」「決めるのは私ではないので」 | 仮説を持って臨む。面談の目的と進め方の合意を取る |
| アプローチ | 取引先からの紹介で会える、中小サービス業の経営者との初回面談(持ち時間15分) | 紹介者の「人の定着に悩んでいるらしい」という一言 | 本当の悩みは定着ではなく、採用した人が戦力になるまでの時間。紹介者の顔を立てて会っただけで、関心は低い | 「紹介だから会っただけで」「15分で終わらせたい」 | 短時間で関心を引く自社の魅力提示。次回面談の約束 |
| ヒアリング | 既存顧客のIT部門担当者からの「ライセンスを追加したい」という問い合わせ対応 | 現在の契約内容、問い合わせメールの文面 | 追加ではなく、他部署への横展開を経営層から求められている。予算は来期。競合製品も並行して検討中 | 「まず見積だけください」。競合の話は聞かれるまで出さない | 表面的な要望の奥にある背景と、決裁プロセスを聞く |
| プレゼンテーション | 2回目の面談。前回ヒアリングした3つの課題をもとに、製造業の工場長へ提案 | 前回のヒアリングメモ(課題3つ)、提案資料 | 前回の面談後、社内で「今期は投資を控える」方針が出た。3つの課題のうち工場長が本当に重視しているのは1つだけ | 「全部は要らない」「今期は難しい」 | 聞き取った課題に対応した提案。反応を確かめながら進める |
| クロージング | 提案後の3回目の面談。建設業の購買部長から「前向きに検討する」と言われている状態 | 提案内容と見積額、前回の返事 | 決裁は役員会で、部長は稟議を通す自信がない。競合の見積は1割ほど安い | 「もう少し検討したい」「もう少し安くならないか」 | 決裁者と決裁プロセスの確認。ネクストアクションの合意 |
| アプローチ(抵抗の切り返し特化) | 過去に資料請求のあった企業の人事担当者への架電 | 資料請求の履歴(1年前) | 資料請求したのは前任者。現担当者は引き継ぎで名前を知っている程度で、いまは制度改定の対応で手一杯 | 「今は忙しい」「必要になったらこちらから連絡します」 | 抵抗への切り返し。面談の目的を短く提示する |
横にスクロールできます
6つに共通しているのは、場面はありふれているのに、裏設定が入ると営業役に「聞かないと分からないこと」が生まれる点です。裏設定の列(4列目)が空のお題は、場面だけのお題です。手持ちのお題を見直すときは、この列が埋まるかどうかを基準にしてみてください。
6列目の「鍛えたいスキル」は、評価項目の言葉で書いておくと、講評がそのままシートに落ちます。項目例は営業ロープレのチェックシートにまとめてあります。
お客様役には、何を見せて何を隠すか
お題の中身が決まったら、次はお客様役にどう渡すかです。ここを口頭で済ませると、裏設定は3分で崩れます。渡すものを紙1枚(あるいはチャット1通)にまとめ、営業役には見せません。
お客様役に渡すもの
- 場面(営業役と共通)。立場、会う経緯、持ち時間
- ニーズの全容。本当の課題、予算の目安、決裁の流れ、競合の検討状況。「聞かれたら答えてよい情報」と「聞かれても最初は濁す情報」を分けておきます
- 抵抗のシナリオ。どの場面で、何と言って断るか。1回のロープレに2〜3個で十分です
- 抵抗を引っ込める条件。「自社に近い事例を具体的に示されたら、話を聞く姿勢になる」のように、何があれば態度が変わるかを書きます。これがないと、お客様役は断り続けるか、根負けして折れるかの二択になります
- 性格は1行で。「慎重で、数字で納得するタイプ」程度。細かい人物設定よりも、4つ目の「抵抗を引っ込める条件」のほうが演じやすさを左右します
営業役に渡すもの
- 会社概要、相手の役職、面談のきっかけ。実際の商談で事前に手に入る範囲に限ります
渡し方のコツは3つです。
- 「聞かれるまで言わない」を明文化する。お客様役は善意で情報を出してしまいがちです。「裏設定は、該当する質問をされたときだけ答える」と紙に書いておきます
- 終了後に裏設定を開示する。ロープレが終わったら、お客様役が裏設定を読み上げ、営業役がどこまで引き出せたかを全員で確認します。ここが講評の中心になります。引き出せなかった情報が、次回の練習テーマです
- お客様役を交代で経験させる。お客様役をやると、営業を受ける側の立場から、自分の商談の癖に気付けます。裏設定を持って断ってみると、「この聞き方では話す気にならない」という感覚が身体で分かります
率直に言うと、ここまで用意するとお題1つに30分はかかります。ただ、一度作ったお題は、裏設定と抵抗を差し替えるだけで何度も使えます。場面の在庫を増やすより、裏設定の在庫を増やすほうが長持ちします。
難易度は、場面を変えずに上げる
「お題が簡単すぎる」「ベテランには物足りない」という声が出たら、場面を凝る前に、裏設定と抵抗の側を調整します。難易度を上げるつまみは3つあります。
- 裏設定の深さ。1つ → 複数 → 階層がある(表に出ている課題の奥に、別の課題がある)
- 抵抗の数と強さ。弱い抵抗が1つ → 条件が揃えば引っ込める抵抗が2〜3つ → 相手の立場によって言い分が変わる複数の抵抗
- 相手の立場。担当者 → 部門長 → 決裁者。あるいは1人から複数人へ
これで、新人向けからマネージャー向けまで、同じ場面のまま段階を作れます。
AIロープレでは、お題づくりがどう変わるか
ここまでの手順を毎回、人の手で回すのは、現実には負担です。裏設定を書く人、お客様役を演じる人、終了後に開示して講評する人と、お題1つに3人分の時間がかかります。AIロープレを使うと、この「お題づくり」の負担は変わります。ただ、どう変わるかはサービスによって方向が分かれます。
| サービス | お題(シナリオ)の作り方 | 土台と評価のしくみ |
|---|---|---|
| PeopleX AIロープレ | AIへの簡単な指示でロープレシナリオを自動生成する機能を案内(2026年9月時点の公式サイトより) | 営業に限らず接客や部下との1on1まで職種を問わず使える総合型。個人・組織のダッシュボード |
| exaBase ロープレ | シナリオやAIアバターを自社内で作成・編集でき、提案書・商談資料のアップロードからシナリオ・評価基準・アバターを自動生成する機能も2026年8月に提供開始(2026年10月時点の公式サイトより) | 評価項目ごとのスコアや改善アクションを自動で出力 |
| UMU AIロープレ | 「スクリプト作成用プロンプト」を使ってAIが自社向けのスクリプトを生成・調整(2026年9月時点の公式サイトより) | 学習プラットフォームの中で練習を回す設計。評価基準(アセスメント)を自社独自に変更できる |
| Brain Plus for Sales運営会社 | 顧客プロフィール(性格・背景)を設定し、顧客役AIがそれに基づいて自律応答。商談資料のアップロードにも対応 | 新人向けからコンプラ・クレーム対応まで段階的な難易度設定。2,000名以上のトップセールスモデルの営業行動・トークを体系化した「5ステップ70スキル」で採点 |
横にスクロールできます
表の上3つは、お題づくりの手間を減らす方向でそれぞれ設計が違います。PeopleX AIロープレは、AIへの簡単な指示からシナリオを自動生成する、作る手間そのものをなくす方向です(2026年9月時点の公式サイトより)。exaBase ロープレは、自社で作り込む方向に、資料から起こす手段を足しています。シナリオやAIアバターを自社内で作成・編集できます。加えて、提案書・商談資料のアップロードからシナリオ・評価基準・アバターを自動生成する機能も、2026年8月に提供開始しています(2026年10月時点の公式サイトより)。UMU AIロープレは、「スクリプト作成用プロンプト」を使ってAIが自社向けのスクリプトを生成・調整する方向です(2026年9月時点の公式サイトより)。どれが合うかは、お題を作る人と時間が社内にあるか、手元に使える資料があるかで変わります。
ただ、この記事の軸は「営業役には見えず、お客様役だけが持つ裏設定」です。これをAIの顧客役にどこまで持たせられるかは、公式サイトの説明だけでは読み取りにくい部分です。抵抗をどう設定し、どの条件で引っ込めるかも同じです。ここはサービスごとに設計の差があるので、デモの場で「営業役に見えない情報を設定できますか」「引き出せたかどうかは採点に反映されますか」と聞いて確かめるのが確実です。
Brain Plus for Sales の場合 — 3層をどう受け持つか
Brain Plus for Sales は営業特化のAI商談シミュレーターで、この記事でいう3層をそれぞれ次のように受け持ちます。
- 場面。商談のプロセス(アプローチ商談など)と顧客プロフィールを設定します。商談資料をアップロードして、自社の商材で練習できます
- 裏設定。顧客役AIには、顧客役AIだけが知っていて、営業担当者からは見えない情報を持たせられます。顧客の性格や背景に基づいてAIが自律応答するため、台本の読み合わせにはなりません。引き出せたかどうかは、練習の結果に表れます
- 抵抗。難易度を段階的に設定でき、新人向けの初級者レベルから、コンプラ対応・クレーム対応まで段階が用意されています。場面を変えずに、相手の手強さだけを上げる使い方ができます
採点は、2,000名以上のトップセールスモデルの営業行動・トークを体系化した「5ステップ70スキル」で行われ、自社独自の評価基準に変更することもできます。お題ごとに見る項目を選ぶ作業は、対人のチェックシートと同じく残ります。ただ、商談プロセスに沿った基準で採点が返るので、講評の物差しをゼロから用意する手間は減ります。
もうひとつ、お客様役を自分で経験できる機能があります。AIがお手本となる営業を実演する機能で、AIが営業役を演じ、自分がお客様役として営業を受けます。対人ロープレでお客様役を経験する意義は、受ける側から自分の商談の癖に気付けることでした。これを、相手の都合を待たずに一人で得られます。
AIで置き換わらない部分もあります。AI相手の練習が受け持つのは、お題を回す回数と、採点の一貫性までです。「自社にとって何が良い商談か」を決めることと、お題の裏設定に自社の実際の顧客像を反映させることは、道具を入れても人の仕事として残ります。また、対人ロープレは、複数人で同じロープレを見て「自社のあるべき姿」を合意する場でもあります。この役割は、AIで置き換えるものではありません。対人ロープレをAIが同じ基準で採点する機能もあるので、対人の場を残したまま、講評のバラつきだけを抑える使い方が現実的です。
お題づくりのチェックリスト
次のロープレのお題を決めるときに、5つだけ確認してください。
- お客様役だけが知っている情報が、1つ以上あるか
- お客様役が断るセリフと、断るのをやめる条件が書いてあるか
- 営業役に渡す情報は、実際の商談前に手に入る範囲に収まっているか
- 鍛えたいスキルが、評価項目(チェックシート)の言葉で1〜2個に絞れているか
- 終了後に裏設定を開示し、引き出せた・引き出せなかったを確認する時間を取っているか
5つとも揃えば、どんな場面でも商談の練習になります。逆に1と2が空なら、場面がどれだけ凝っていても、台本の読み合わせに戻ります。
まとめ
営業ロープレのお題づくりは、「相手が何を隠していて、何で断るか」の設計です。
- お題は場面・裏設定・抵抗の3層。差がつくのは2層目と3層目
- お客様役には、ニーズの全容と抵抗のシナリオ、そして抵抗を引っ込める条件を渡す。営業役には基本情報だけ
- 難易度は場面を変えずに、裏設定の深さと抵抗の強さで上げる
場面を変えるより、隠しごとを変える。次回のロープレでは、手持ちのお題に裏設定を1つ足すところから始めてみてください。
関連記事
- ロープレの準備・実施・講評・振り返りの型: 営業ロープレのやり方
- 講評に使う評価項目の例: 営業ロープレのチェックシート
- 生成AIで裏設定付きの顧客役を自作する: AIロープレの作り方
- AIが顧客役・評価役を担うロープレの選び方: 営業ロープレはAIでどう変わるか
- 主要サービスの比較: AIロープレツール比較の記事
参考URL
- PeopleX AIロープレ
https://peoplex.jp/ai-roleplay/ - exaBase ロープレ
https://exawizards.com/exabase/roleplay/ - UMU AIロープレ
https://www.umu.co/product/ai-roleplay-chatbot
Brain Plus for Sales
「採点の基準」から作られた商談シミュレーターを、実際の画面でご確認いただけます。